2014年11月1日

11月1日(土)

11月最初の日。きょうは雨まじり。

きのうの夜は映画を見て、遅い時間に地下鉄に乗って帰る。
ハロウィンとやらで、仮装したひとたちは華やいだ空気を纏っていた。そこから切り取られたみたいにぼんやり立っているわたしが暗い窓に映る。文庫本を片手に持って。
不満そうな、居心地悪そうな表情。

久しぶりに『我が感傷的アンソロジイ』を捲る。岩本敏男の章。
「ひところ私はおこがましうある新聞の投稿詩の選者をしていたが、投稿者のなかで岩本敏男の作品は抜群だった。」と書かれいてる。

一九五五年の秋、何の飾りっ気もない白表紙の『岩本敏男詩集』が送られてきたのだが、天野さんの一番気に入りの作品はどうしてだがこの詩集からは洩れていたそうだ。「新聞の切抜きもないのでここで紹介のしようもないのが、私にはたいへん心残りだ。」とある。「たしか「独立の日」と題された作品だった。」

随分前に無名の女性が書いた『天野忠さんを偲んで』という小さな冊子を貰った。古本屋で安く売られていたという。
天野さんは朝日カルチャーセンターで現代詩講座の講師をしていたのだが、その教え子の方が書いた、つつましい自費出版の冊子である。
繰り返す引越しのなか、売られることも、捨てられることもなく、本棚のすみっこに常にある。普段は忘れているが、何年かに一度、その存在をおもいだす。そして、棚から抜いて眺めるのだ。まことに不思議な不思議な冊子なのである。

当時の朝日カルチャーセンターの現代詩講座は天野さんと大野新さんが交替で講師をされていたらしい。今からおもえば、なんと贅沢なことだろう。
そのうすい冊子に、前述の「独立の日」が全文引用されていて、発見したときは、「あ!」と驚いたものだ。

「詩人のなすこういちさんが、五十年前の新聞の切り抜きを保存されていて、詩誌「鳥」に紹介されたそうな。」と説明されている。


独立の日  岩本敏男

その日は 家の
六畳と三畳に
黒い布をしきつめて
母は糸のもつれをほぐしていた
私は窓ぎわにいて
糸車のハンドルをまわしていた
昼になって
私はパンの耳をかじった
母は井戸で水をくみながら
レイテ島で戦死した
兄の法事をせねばならんといった
その日は
空も晴れていて
物干の洗濯物もよく乾いて
裏の柿の若葉に
小さな鉢がうなっていた


きょうは、何年かに一度、その不思議な冊子の存在をおもいだした日だった。
雨降りの、11月最初の日。